漢方の基本的な考え方を解説します。また、漢方では自分の身体の状態を把握することも重要です。自分のタイプや健康度のチェックをしてみましょう。
今の身体の状態がどうなのか?分かりやすく8タイプを紹介します。4つ以上当てはまると、そのタイプが近いと考えられます。またこの状態は、一定のものではなく環境の変化、季節の変化、年齢によっても体質やタイプ状態は変わっていくものです。時々自己チェックを行い見直しましょう。
気虚(ききょ)タイプ | □疲れやすい 元気がない
□息切れすることがある □運動もしてないのに汗をかきやすい □呼吸が浅い □食が細い □朝起きるのが辛い □下痢しやすい |
気虚とは気の不足している状態。元気がなく活発に活動できなります。食欲不振や味覚もなく美味しくないなど。気は、血や水にも影響を与えるため注意が必要です。 〈オススメ〉 漢方薬…四君子湯(しくんしとう)、六君子湯(りっくんしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など 食材…しいたけ、大豆、たまご、なつめ、長いも(山芋) |
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気滞(きたい)タイプ | □お腹が弱く、膨満感、腹痛がある
□胸が苦しく、息が塞がる感じがする □ゲップがよくでる □憂うつな気分な時がある □頻尿、残尿感を感じる時がある □月経痛、下腹部痛、月経前のイライラ □イライラする、不安、焦り感等がある |
イライラする、不安や焦りを感じることが多く、食べた物が、消化、吸収もスムーズにいかない。排便、排尿もしぶりがちでスッキリしない。 〈オススメ〉 漢方薬…加味逍遥散(かみしょうようさん)、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)など 食材…しそ、セロリ、らっきょう、大根、そば、ゆず |
血虚(けっきょ)タイプ | □皮膚に艶がなく、カサカサしている
□やせ型、身体に潤いがない □爪や髪が痛みやすい □目のかすむ、めまいがある □月経量が少ない □脈が細い □尿、便共に量が少ない |
通常食もあり元気だが、気虚も伴うと元気がなくなり不安や精神的な症状も現れることも。皮脂の分泌が悪く皮膚が乾燥している。顔色も悪くなる。 〈オススメ〉 漢方薬…四物湯(しもつとう)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、芎帰調血飲第一加減(きゅきちょうけついんだいいちかげん)、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)など 食材…クコの実、なつめ、黒ごま、レバー、あさり |
瘀血(おけつ)タイプ | □顔色が悪く、黒ずんでいる
□しみ、あざが出来やすい □足などの静脈血管が浮かび上がる □頭痛、めまい、のぼせのいずれかある □肩こりが慢性的にある □生理痛がつらい、生理不順 □目の充血がある |
肩こり、頭痛、生理痛、生理不順、冷えなど日常的な訴えのなかには、血液の滞りによって引き起こされる場合がある。 〈オススメ〉 漢方薬…桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくぎょうきとう)、芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)、大黄牡丹皮湯(だいきぼたんぴとう)など 食材…黒豆、桃、山査子、らっきょう、菜の花、ピーマン、なす、うなぎ |
陰虚(いんきょ)タイプ(津液不足) | □喉が渇きやすい
□髪の毛や肌が乾燥しやすい □寝汗をかく □手足がほてる □便秘しやすい(コロコロの便) □舌が赤い、舌の苔が少ない、舌が時にひび割れ ている □尿が少なく、尿色が濃い |
陰とは水(津液)を含み、身体に必要な水分で、慢性的に陰不足の状態を陰虚といいます。原因は、加齢によるものや、サウナやスポーツなど大量の汗によるもの、飲食の不摂生や摂取不足があります。 〈オススメ〉 漢方薬…六味丸(ろくみがん)、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん) 食材…トマト、豆腐、長いも、ゆりね、クコの実、松の実、あさり |
水毒(すいどく)タイプ (水滞・水腫・痰飲) | □むくみやすい、身体がだるい
□身体が重い □雨の日や曇りの日に、頭痛、頭重、めまいなど 体調が悪くなる □腰痛、関節痛がある □くしゃみ、鼻水が頻繁に出る □朝起きたとき、まぶたの浮腫がある □舌にベトベトした白又は黄色の苔がある |
水は身体を循環し、潤いを保つのに必要なものです。しかし、いったん巡りが滞ると身体にとって有害なものになります。原因は様々ですが、胃腸を酷使し続ける様な食生活は水のよどみを引き起こします。漢方は、体内の過剰な水分を排泄する利水剤を用います。 〈オススメ〉 漢方薬…五苓散(ごれいさん)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、真武湯(しんぶとう)、猪苓湯(ちょれいとう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう) 食材…生姜、そら豆、しそ、しじみ、きゅうり、なす、すいか、ひじき |
寒(かん)タイプ | □全身、手足、冷えを感じる
□冬や寒い場所、冷たい飲み物も苦手 □顔色が青白く血色が少ない □尿量が多く尿の色が薄い、尿回数も多い □下痢しがち、または軟便が多い □生理が遅い時や生理痛がひどい時がある □寒いところで、水様の鼻水、くしゃみ、薄い痰が出る |
寒証とは、身体の機能が低下し循環機能が悪くなって身体を温める機能が低下し、慢性的に冷えが出て来たものです。その他に、外界からの冷えによって起こるものや、急性期の症状としてウイルスや細菌の感染による生体反応として寒気がものをいう場合があります。 〈オススメ〉 漢方薬…当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、五積散(ごしゃくさん)、真武湯(しんぶとう)、芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん) 食材…生姜、かぼちゃ、エビ、みそ、羊肉、日本酒、ねぎ、ニンニク、にら、山椒、唐辛子 |
熱(ねつ)タイプ | □暑がり
□のどが渇きやすい、特に冷たいもの □怒りっぽい、イライラしやすい □吹き出物が出やすい □顔色が赤っぽい □目が充血する □便秘しやすい |
体温維持や、新陳代謝、機能回復など身体に必要な熱。熱証とは、活動エネルギーが過剰で、熱がこもっている状態をいいます。 〈オススメ〉 漢方薬…黄蓮解毒湯(おうれんげどくとう)、三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょとう)、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、大柴胡湯(だいさいことう) 食材…トマト、きゅうり、牡蠣、すいか、大根、あさり、ゴーヤ、白菜 |
あてはまるタイプは、一つとは限りません。複数のタイプが重なる場合も多いです。
「寒タイプ・熱タイプ」について
寒タイプは陰証(または陽虚)ともいい、身体が冷えやすいなど活動エネルギーが不足している状態を指し、熱タイプは陽証(または陽実)ともいい、熱がこもって体力消耗が激しいなど活動エネルギーが過剰な状態をいいます。
※陰陽論の概念は広く、中国伝統医学と日本漢方は言葉の意味が異なります。ここでは漢方・薬膳へ繋がりを持てるよう寒タイプ、熱タイプとし、慢性症状として表現させて頂きます。
本来は、急性疾患の場合に用いて、三陰三陽論の三陰…寒(陰病期)、三陽…熱(陽病期)として用いるのが一般的です(日本漢方)。また慢性疾患の場合においては、寒・熱を考慮しなくてもよいことが多く、虚(きょ)・実(じつ)として、生命の抵抗力の強い(実)、弱い(虚)を考慮することが多いです。
健康度が高い | 健康度が低い | |
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顔色
肌 |
□顔色いい
□肌艶いい |
□顔色悪い
□肌艶悪い |
体格
体型 |
□骨格がっちり
□筋肉質 |
□骨格細い
□やせ型または水ぶとり型 |
適応力 | □疲労回復が早い
□風邪引きにくい □ストレスに強い □寒さ熱さに順応できる |
□疲労がなかなか取れない
□風邪引きやすい □ストレスに弱い □寒さ熱さに順応できない |
食欲・睡眠・便通 | □良好 | □不調 |
精神状態 | □情緒安定
□意欲的 □楽観的 |
□神経過敏(不安感・焦り)
□無気力 □悲観的 |
「実」とは病気に抵抗する力が充実している状態、「虚」病気に抵抗する力が衰えている状態と考えます。普段の状態で当てはまるものにチェックして、あなたの体質はどちらに傾いているか調べてみましょう。漢方薬を選ぶ時の一つの目安になります。
※陰陽虚実は漢方医学の二大古典である「傷寒論(しょうかんろん)」に基づくか、「黄帝内経(こうていだいけい)」に基づくかで意味内容が異なります。
五行「木(もく)・火(か)・土(ど)・金(ごん)・水(すい)
」とは、自然界の万物を構成するものを五つのエレメントで表し、漢方の根底に流れている漢方理論の一つです。漢方薬も薬膳も共通して用いられます。
五行には次のような意味づけがあります。
・木(もく)は草木が芽生え、万物が生まれる時期として、季節は春、五臓は肝が当たります。
・火(か)は火が燃え、熱を生じ、季節は夏、五臓は心が当たります。
・土(ど)は大地を意味し、四季すべてに関わりを持ち、五臓は脾が当たります。
・金(ごん)は金属を示し、金属は人が作り出したもので秋の収穫を象徴し五臓は肺にあたります。
・水(水)は湧き出る水を意味し、地中にあり生命の水、やがては万物の源となる。季節は冬、五臓は腎にあたります。
五行 | 木 | 水 | 土 | 金 | 水 |
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五臓 | 肝 | 心 | 脾 | 肺 | 腎 |
五腑 | 胆 | 小腸 | 胃 | 大腸 | 膀胱 |
五季 | 春 | 夏 | 土用 | 秋 | 冬 |
五味 | 酸 | 苦 | 甘 | 辛 | 鹹 |
五色 | 青 | 赤 | 黃 | 白 | 黒 |
etc… | … | … | … | … | … |
※「五行色体表」と呼ばれ、他にも五行にあたるものはたくさんあります。
そしてこの五行の相互関係を表すものとして、相生(そうせい:エレメントを高める関係)、相克(そうこく:エレメントを抑える関係)があります。漢方薬・薬膳はこの考えを利用して、生薬の配合・食材の配合を治療・目的に合わせ決定していきます。
食材や生薬には身体を温めたり冷やしたりする性質を五性(ごせい)といい、五段階に解かりやすく表したものです。
五性 | 寒 | 涼 | 平 | 温 | 熱 |
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食材 | ゴーヤ あさり 大根 なす ごぼう しじみ バナナ |
きゅうり セロリ ゆり根 緑茶 はと麦 そば ほうれん草 トマト |
山芋 クコの実 じゃがいも にんじん 黒ゴマ 牛肉 豚肉 牛乳 |
かぼちゃ なつめ にんにく べぎ あじ べにばな 羊肉 マグロ |
こしょう 唐辛子 |
生薬 | 大黄(だいおう) 沢瀉(たくしゃ) 杏仁(きょうにん) 防已(ぼうい) 黄連(おうれん) |
柴胡(さいこ) 地黄(じおう) 牡丹皮(ぼたんぴ) ヨクイニン |
山薬(さんやく) 甘草(かんぞう) 酸棗仁(さんそうにん) 茯苓(ぶくりょう) |
紅花(こうか) 桂皮(けいひ) 山椒(さんしょう) 大棗(たいそう) 陳皮(ちんぴ) |
附子(ぶし) 乾姜(かんきょう) |